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つとみや あかつき
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1990/11/05
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おんなのこがすきです。
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創作倉庫。 基本的に手ブロ創作企画関係を収納してます。 初めましてのかたはカテゴリ「はじめに」をどうぞ。
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ガーネットちゃん(@哀火)とムイムイさん(@KAKEIさん)をお借りして!アウリンのお仕事。
しかしムイムイさんが掴めていない…






――――――――――

ざわざわと蠢く暗い森は、魔が潜んでいる。

そう言ったのは誰だったろう。
あの人だったかもしれないし、違う人だったかも。
複雑に絡ませた根の、そのほんの少しを露出させた大木を回り込みながら後ろを確認して唐突に浮かんだ言葉を反芻する。

(そう、ちょうどこんな森にはよくないものが息をひそめているって)

ちらりと見えたのは絶え間なく動く細長い脚、かしかしと擦れる顎にずらりとならんだ目、まるい胴体。

(うわあああ、きてる、きてるよぅっ)

体力に自信はある方だったけれど、成長途中の歩幅は小さくてたいしたスピードが出ない。
追い付かれてしまったらどうしよう。
自分の腕を――肘の上から切り取られた両の腕ではなくて、その代わりに与えられた"まほうの腕"――使えばどうにかできるかもしれなくても、何度も使うことができるものじゃないし、今日はこれ以上使えばきっと倒れてしまう。
とにかく、約束した場所まで行ければ大丈夫。
大丈夫だけど、そこまでたどり着けるかな……

「っきゃあ!」

焦りと疲れと、それからよそ見をしていたせいだろう。
気付かなかった窪みに足をとられてしゃがみこむ。
すぐ後ろには大きな蜘蛛――かける、たくさん。
細長い脚が音もたてずに樹から樹へ。
生理的な嫌悪感と恐怖で体が動かない。
どうしよう、どうしよう、どうしようという言葉ばかりが頭の中でぐるぐるとまわる。

「……っ!」

それはすぐ近くの蜘蛛が、獲物を仕留めるようにざわめいた瞬間だった。
体に響き渡る轟音と、それに伴って舞い上がった砂煙。
薄い煙の向こうに見えたのはなだらかな曲線を描く大剣。
鳥のような意匠の柄を握ろうとする、空から降りてきた人影。

「汝弱き者よ、魔と戦うか?」

柔らかい、すべすべした樹の肌を思わせる色の髪はふうわりと結われていて、口角はにっこりと持ち上がっていて。
瞳の色は冴えたブルーダイヤの透明感。
その背には悠々と広げた白い翼。

「天使さまだぁ……」
「はい、天使ですよー」

思わずこぼれた言葉に花の咲くような明るい声で応えられて、降り立った瞬間の神々しさが霧散する。
親しみやすさの勝つ雰囲気を撒き散らす天使さまの後ろでかさこそと足を擦り合わせた蜘蛛が森の闇へと沈もうとしているのが見えて慌てた。
逃がしちゃだめだったのに!

「にっ、逃げちゃうっ!」
「駄目なのですか?」
「だめなんです、えっと町の人からの依頼で――あわわどうしよう……」
「なるほど子羊を脅かす魔物なのですね!殲滅するですか!」
「わーっ、殲滅しませんっ!捕まえなきゃいけないんですーっ!」
「だ、駄目なのですか!」
「……なにをしているのかね」

あわあわとしていたところに、あきれたような女の人の声。
影が一瞬、濃い、深い夜の湖のいろに染まって、地面が水面のように波紋を広げる。
その中心からざばりと長い黒髪に黒いドレスの女の人が――あ、あれ?

「オーさんがちっちゃいっ!?ああっでもそんなことよりごめんなさいっ逃げちゃいそうで!」
「省エネというやつだ。やれやれ…来てよかったな」

影の中から出てきた、私よりも少し小さいくらいの姿になったオーさんが呆れたように肩を竦める。
ふっとなにかが私の横を掠めた、と思ったら、彼女の首すれすれにおおきな剣の切っ先が向けられていた。

「……剣を引きなさいそらの住人。手を貸せ」

向けていたのはさっきの天使さまで、きゅっと眉を寄せた厳しい顔。

「あなたは――魔物に思えます。悪魔に手を貸せと言うのですか?」
「無垢なる子羊になら貸すのかね?ならばアウリン、君から頼みなさい。ガーネットとこうも離れていてはあれの足留めくらいしか私にはできないよ」
「えっ?あ!」

どうやら出てきた一瞬ですばやく影を広げて、蜘蛛の動きを止めたらしかった。
私と、天使さまを避けた細い細い無数の筋が、筆を走らせたように地面を這って奥へと続いている。
道理でさっきまでかさかさと聞こえていた跫は息をひそめ、葉擦れの音すらも聞こえないはずだ。

「……樹までくくったんですか……?」
「数が多い。丸ごと止めた方が楽だよ」

言って彼女は喉元に突きつけられた刃を不愉快そうに見た。
しんと静まった森。
足留めくらいしかできないってことは、無理矢理向こうまで連れていけないってこと。

「オーさん……ガーネットさんのところまで誘導することって、できますか?」
「彼らがこちらに向かって走るなら、まぁ、不可能ではない」
「……天使さま。力を貸していただけませんか」

かれは青い瞳でじっとこちらを見ている。

「私は白魔導師で、アウリン・アフヴェンラティと言います。この近くの町のひとからあの蜘蛛をなんとかしてほしいと依頼があって、ヘキサグラム神殿から来ました。私と一緒に仕事をしてくれる人が、この先で捕縛の魔方陣をしいてくれています。私が囮になってそこまで行く予定だったんですけど、できなくって。今、あの蜘蛛はオーさんのちからで動けませんけど、それを解けばまた動き出します。そのときに彼らの鼻先で、なにかしてほしいんです。強い光を出すとか、剣を振るうだけでも。とにかく彼らが怯んで、こっちのほうに来るようにしてもらえれば、オーさんが魔方陣のほうに誘導してくれます。……お願い、できますか?」

かれはすっと目を閉じて天を仰いだ。
逡巡してからもう一度こちらを見て、ひゅんと剣を収める。

「わかったのです、手を貸しましょう!鼻先で閃光を。そのあとは……手出しはしませんが」
「は……はいっ!ありがとうございます!」

それでは、と地面を蹴って飛び上がる影を見送って、はたと気付く。

「あ……オーさん、タイミングが掴めません!」
「飛ぶものの影は薄くて見えづらいんだがな……掴めるだろう。少し静かにしなさい」

うんざりした顔を隠しもせずに彼女が言って、とぽんと影に身を沈めた。
地面を這う影が少しその濃さを増して、じりじりするような一瞬の後にかき消える。
樹木の隙間を縫って光が閃いた。

「きゃ……」
「来るぞアウリン、走りなさい!」
「え、わ、わっ、はいっ!」

ざわざわと気配が近付いている。
どくどくと心臓が激しく踊る。
森が開けて、黒い髪の友人の横を走り抜けて――

「きゃうんっ!?」

勢い余って転んでしまった。
顔から転ぶことはなんとか阻止したけれど、顎の端と耳の辺りを少し擦ってしまったようでなんだかじんじんする。
ワンピースはどうかわからないけど、マントはきっと砂だらけだし、もしかしたらタイツは破れてるかも。

「いたた……」
「大丈夫ですかー?」

ふわぁ、と柔らかい風と羽音でさっきの天使さまが降りてくる。
口を挟む間もなくひょいと持ち上げられて、屈みこんだかれに足の砂を払われた。
いいのかなぁ、こんなことさせてしまって。
いや、自分じゃあ払ったりできないから、かれにやってもらえなかったら後で誰かに頼んだのだけれど。

「ありがとうございます」
「いえいえ。顔のところ、赤くなっていますけど」
「あー……すごく血が出ているとかでも、ないみたいなので、大丈夫です」

私の言葉にかれは少し微笑む。
それからふっと私の背後に視線を移して、不思議そうに首をかしげた。

「さっきの蜘蛛はどこへ行ったのですか?確かにこっちに来ていたのに」
「え?」

振り返ると、丁度私の黒髪の友人、ガーネットさんが伸びをしながらこちらに近寄ってくるところだった。
オーさんの姿はないけれど、彼女は姿を見せている方が少ないからいつものように隠れているんだろう。

『盛大に転んでいたみたいだけど、大丈夫?』

黒い板の上に、細い筋が流麗な筆記体を紡ぎだす。
喋らないのか喋れないのかわからないけれど、ガーネットさんとの会話はいつもこうだ。
初めて見るひとは驚くんじゃないかなぁ。

「ちょっと痛いけど、大丈夫そうです。蜘蛛はどうなりましたか?」
『オーが檻のなかにまとめて入れたよ』
「檻?」
『彼女の住み処に通路が繋いであるの。そちらは?』
「えっと……さっき手伝ってもらったんです」

私の言葉に、小さく首をかしげた彼女がふわりとお辞儀をした。
ツインテールに結んだ髪もふわりと下がる。
私とそんなに年が離れているようには見えないのに、彼女の物腰や涼しげなひとみはとても大人びていてうらやましい。
私の方は背の低さやからだの細さで、よく年より幼く見られてしまうから。

『ご協力感謝します』
「構わないのですよー」
『じゃ、帰りましょうか』
「あ、はいっ。いやっちょっと待ってください!」

わたわたと天使さまのほうに身体を向ける。
不思議そうに私を見る晴れた空の瞳を見上げた。

「お名前を、うかがってもいいですか?」
「私ですか?ムイムイと言うのですよ」
「ムイムイさん。ムイムイさん――今日は本当にありがとうございました。また会えたらとっても嬉しいです!」
「ふふっ、どういたしまして!怪我が早く治るといいですね」
「えへへ、はい。ちゃんと治します」

にこりと笑った天使さま、ムイムイさんに頭を下げて、待っていてくれたガーネットさんのところへ駆け寄った。
またひとつ家族に話の種ができたなぁ、と思ってなんだか嬉しくなる。
天使さまに助けてもらえたなんて!

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