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[02/18 かや]
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初めましてのかたはカテゴリ「はじめに」をどうぞ。
柚蜜と朝の日課。乙夜さん宅鬼灯丸さんと、さとさん宅伊三くんの名前を借りています。
昔からわたしは、いちばんに夜明けが好きでした。 夜から朝になる直前のキンと冷え澄んだ空気。朝日と共にゆっくりと上がっていく光度と温度。樹木の呼吸。いきものが活動を始める小さな音。名も知れぬ小さなあやかしが宙を舞う姿。 そんな、世界が目覚めていく気配に自分の存在が溶け込むこと。 それがたまらなく好きで、毎朝の禊とその前の精神統一の時間は欠かせないものになっています。 ここに――陰陽寮に来てからも、その習慣は変わっていません。初日に相応しい場所を見つけられたのは思いがけず幸運でした。神に類するかたが多いからかもしれません。 座禅を組むかたは思考を流してゆくことに徹していらっしゃると思いますが、わたしも大抵の場合は何も考えずただ呼吸を意識しているのですが、時々こうしてつらつらと考え事をしていることがあります。 思考の隘路に閉じ込められたときは特にこの静かな時間が重要なのです。自分をシンプルに解きほぐせば、良い案が生まれることもあります。 昔はもっと自由にしていたような気もするのですが……きっと気のせいなのでしょう。 「――っふ」 目を閉じる前は未だ紫の夜が名残惜しげに星を散らしていたのが、もう朝が淡い薄衣をさあと広げています。ああ、夜明け星を見逃してしまいました。 ゆっくりと息を吸って身体をほぐしていきます。長く同じ姿勢でいるとずいぶん強張ってしまいますね。 腕、肩、首と動かしてから体側面をじんわりと伸ばします。立ち上がって思いきり背伸びをすればぱきぱきと音が聞こえるような気分。たまに実際に聞こえます。 徐々に身体をほぐしてストレッチをしてから手早く火を起こします。まだ肌寒いですから、水から上がったときにこれがないと本当に生死に係わるのです。 家では周りに風避けがありましたけれど、ここではさすがに用意できませんし。 さて、覚悟を決めて。 「~~~~っ」 冷たさは一歩水に足を踏み入れた途端にぞわっと背筋が震えるほど。深さはわたしの胸下くらいまで。 はあっと吐息が漏れて、鳥肌が立つのがわかります。いくら慣れていると言っても冷たいものは冷たいのですから。 それでも顔を洗って何度か深呼吸をして、囁く程度、自分にだけ聞こえるくらいの微かな声で大祓詞を奏じます。本来は書き出した紙を読み上げるべきなのですが……水の中では、さすがにちょっと。 祝詞を終えて、屈んでじわじわと水に触れる部分を増やしていきます。身体が沈むのと並んで、乾いた髪が水面にゆるく広がるのがわかります。 肩まで水に浸かったところでゆっくりと呼吸を整えてそのまま潜れば、全身が刺すように冷たい泉のなか。 胎児のように身体を丸めて、時折自分が吐いた息が泡になって耳元を掠めるほかは静寂の世界に包まれて。 息の続く限りそのままでいますが、限界になる前にぐるりと仰向けになって身体を自然に伸ばします。ぽかりと水面に浮いたままでいれば、水のなかに沈んだ耳は静寂の内に水の流れる音と自分の呼吸音だけを聞き取ります。 世界と自分が融け合う気持ちになれます。 「……!」 今、なにか聞こえて―― 「ああ、生きていたか」 突然の気配に水を蹴立てて姿勢を整え、水底に足を着きました。禊の最中は感覚が冴え渡って、小さな気配に敏感になるのです。 目が合ったのは、真白な狼の姿。背に負うて見えるのは剣でしょうか。二足歩行で着物を身につけ人語を解して、明らかに普通の狼ではありません。大神の流れを組むものでありましょう。 「死体が水に浮いているかと思ったぞ」 「あ……申し訳ありません、驚かせてしまいましたか」 苦笑を滲ませた声に謝罪を口の端にのぼらせれば、よいと手を振っていらえが返りました。 「邪魔をしたな」 「いいえ。 場をお借りしているだけですから」 「そうか? ああ――余計なことだが、上がるなら水気を切って着替えるか羽織るかしたほうが良い」 「はい。 お騒がせいたしました」 笑って礼をして、彼の方の気配が滲んでゆくのを意識の外へ払いながら髪を絞って水気を切っていきます。集中が途切れたところで禊は終わりです。 集中が切れる切欠になるものは大抵その日に起きることのしるしになりますが、今日はどうなのでしょうか。それを読み解けないなら、まだまだ修行が足りないのでしょうね。 「……っくしゅ」 さすがにまだ冷えますね……早く戻って、きっと伊三くんが温かい飲み物を準備してくれていますから、頂くことにいたしましょう。 PR この記事にコメントする
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