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ライナ先生の契約を解除したのはひつぎちゃんでいいって姉さんが言うから、つい!




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「こんばんは!いい月ですわね、ご機嫌はいかが?」

彼女はそう言っていた。
フリルの縁取りのついた傘をさして空を楽しそうに進みながら、彼女はたしかにそう言っていた。
やがて彼女がゆっくりと高度を下げて地面に降り立ったから、その容貌ははっきりとわかるようになる。
小柄で華奢な少女の体つき。
かばんを置いて傘を畳む指先は小さく丸みを帯びている。
見様によっては白くも見える銀色の髪。
青玉を思わせる瞳は吊り気味で気が強そうに見えるけれど、くっきりと弧を描くばら色の唇やほんのり染まった頬に中和されて明るい様子に変わる。
墓前に立つのに相応しい真っ黒なワンピースに真っ黒なかばん、傘の握り手まで艶のある黒。

「こんばんは。確かにいい月だね、お嬢さん。…何か用かな」

彼はそう答えた。
月を反射して光る墓石の上に当然のように座って分厚い本を膝に広げて、彼はそう答えた。
全体にやや細身だが骨格のしっかりした青年で、肩掛けを抑える掌やページを繰る指は思いのほかごつごつして見える。
蒼くくすんだ白い髪。
紅い目の下にはくっきりと隈が影を落としているが、鷹揚に微笑んでいるせいか不思議と不健康な様子には見られない。
立ち襟の柔らかそうなシャツから覗く首には無骨な革の首輪が巻き付いて、同じく無骨な鎖が伸びている。

「このあたりに魔術師のお墓があるって噂を聞きましたの。ご存知かしら?」
「ああ…よく知っているよ」
「素敵ですわ」

年端も行かない少女にしては堅苦しい口調。
けれど背伸びをしてそんな風に喋っているわけではないらしく、いかにも自然体である。
それに対して青年も薄く笑う。
内心では自分の役目を考え、場合によってはこの少女を攻撃しなくてはならないな、と少し憂鬱になりながら。

「教えていただけないかしら?」
「いいよ。…君の目の前にあるのがそう」
「あら」

青年の言葉にほたりと少女は瞬いた。
気付きませんでしたわ、小さくつぶやく彼女を彼は訝しげに見る。

「…お嬢さん」
「はい?」
「君は、何かな」

すいと目を細めて彼は尋ねた。
その足元で影が蠢く。
これまで訪れてきた相手はどれも明確にここを目指していたし、明らかな害意を以て彼に接してきた。
彼女にはそれがない。
だから彼には、攻撃を仕掛けていいのかの判断がしづらかった。
もしかしたら彼の契約を壊してくれるかもしれないのだから。
それゆえの、先の問い掛けである。

「まぁ…わたくしとしたことが名乗りもせずに申し訳ありません」

問い掛けに彼女はぱっと目を瞠り、ワンピースの裾を摘んで優雅な礼をとった。
幼い容貌と相まってその姿は微笑ましくもあったけれど、妙にしっくりと馴染んでいた。

「わたくしは魔女。死ねない赤絨毯(スカーレットアンデッド)もしくは死体姫。屍羽柩姫、ですわ」
「…魔女の街の所属かな」
「ええ。愛情をこめて名前で呼んでくださいな」
「柩姫君、ね。俺はライナ。よろしく」

視線に険を湛えたままで、彼は彼女の言葉に応じた。
口許は笑んだまま、それで、と言葉を滑らせる。

「君もあの本が望みなのかな」
「本?」
「ここで俺が守っている本」
「あら、そうなんですの?ご期待に添えず申し訳ありませんけれど、わたくしそんなものはいりませんわ」

いらない、と。
興味なさ気に彼女が告げる。
その次の言葉を紡ぐその前にかりん、と音がして。
彼の鎖は地に落ちた。

「……あ」
「…あら?」

地面に落ちた鎖を彼女が拾い上げる。
首輪に繋がっていた部分が砕けて、そのために鎖が外れたことを見てとった。

「ええと…ライナさん?伺ってもいいかしら?」
「ぁっ…ああ、うん、どうぞ」
「ここにある魔術師の死体、いただいても?」
「へ?う、ん。構わないけれど」
「ありがとうございます。魔術師の死体って貴重品ですのよ」
「…君は、なにも聞かないんだね?」
「聞いていただきたいの?」
「………いや」

にこやかに笑みを浮かべる魔女に、彼も微笑んで言った。

「でも、お礼は言いたいかな」

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